高血圧治療の新たな展開

―JSH2009を日常診療にどう活用するか―

■JSH2009発表・出版■

■踏襲された後期高齢高血圧の降圧目標■

■刷新されたリスク層別化■

■積極的適応の大部分をカバーするARB/ACE阻害薬■

■降圧薬の第一選択薬をめぐって■

■コディオ®配合錠が新登場■

荻原 俊男
(司会)
大阪府立急性期・
総合医療センター
院長
  楽木 宏実
大阪大学大学院
医学系研究科
老年・腎臓内科学教授
  島本 和明
札幌医科大学
第二内科教授
(発言順)

熱い期待の中で、我が国の高血圧治療ガイドライン(JSH)2009が出版になった。同ガイドラインは、前回の2004年ガイドライン以降に得られた我が国の大規模臨床試験の成績が反映されるなど、これまでにはない特徴がある。メタボリックシンドロームや慢性腎臓病(CKD)などが話題になる中での改訂作業だっただけに、これらの疾患も大きくクローズアップされている。また、同ガイドラインでは新たに合剤に関しても言及されているが、JSH2009出版と時期を同じくして、ディオバン®とヒドロクロロチアジド(HCTZ)の合剤であるコディオ®配合錠が承認された。当座談会では、JSH2009作成に携わった先生方にお集まりいただき、JSH2009の特徴についてご紹介いただくと同時に、新しく登場したディオバン®とHCTZの合剤「コディオ®配合錠」にも焦点を当てていただいた。


■JSH2009発表・出版■

荻原 このたび日本高血圧学会は、つい先月、JSH2009を発表・出版致しました。これは2004年以来、5年ぶりの改訂となります。今回の改訂の目的は、一般医家が日常診療で最も高頻度に遭遇する高血圧症患者に対して、最適な診療を提供するための標準的な指針とその根拠(エビデンス)を示すことにありました。作成方針としては、一般医家の日常診療に有用でプラクティカルであることを目指しました。エビデンスに関しては、2004年ガイドライン以来集積された我が国の大規模臨床試験の成績を取り入れ、アップデートな内容にしました。今回、初めて正常高値血圧(130〜139/85〜89mmHg)がリスク層別化の血圧分類に加わったのも新しい点です。厳格な降圧の重要性は2004年ガイドラインと変わりませんが、降圧目標の対象に若年者・中年者、高齢者、糖尿病・腎臓病患者に加えて今回は、心筋梗塞後患者と脳血管障害患者が追加になり、各患者別の家庭血圧の降圧目標値も盛り込まれました。その家庭血圧を応用することによって、白衣高血圧、仮面高血圧、早朝高血圧、夜間血圧、ストレス下高血圧などの血圧日内変動に基づく高血圧に対して対処できるような内容となっています。最近、特に我が国で問題になっているメタボリックシンドロームやCKDに対しても頁を割いています。本日はこうした改訂点を中心に、JSH2009の作成事務局長を務めた楽木先生、高血圧学会新理事長の島本先生に色々とお話を伺いたいと思います。

■踏襲された後期高齢高血圧の降圧目標■

荻原 高齢者のうちでも特に議論になったのは後期高齢者(75歳以降)の降圧目標です。楽木先生から、その辺の問題についてお話し願います。

楽木 色々と議論を重ねた末、「後期高齢者(75歳以降)では収縮期血圧160mmHg以上のII度、III度高血圧では140/90mmHg未満を最終降圧目標とするものの、150/90mmHg未満を中間目標として慎重に降圧する」との記述になりました。基本的には前回と同じ考え方です。これを支持するデータとしては、ガイドラインにも書いたように、我が国で行われたJATOSとCASE-Jサブ解析の成績があります。これらの臨床試験のデータに基づき、まずは中間目標である150/90mmHg未満を達成すべきであり、最終的にどこまで下げると良いかはまだ定かではないものの、海外で超高齢者を対象とした大規模臨床試験HYVET(2年後144/78mmHg)やこれまでの疫学データなどを参考にして140/90mmHg未満を最終降圧目標に設定しました。

■刷新されたリスク層別化■

荻原 JSH2009ではリスク層別化の表も刷新されました。その表を高血圧管理計画に直結させることで、ガイドラインを一層実用的にするという方針が採用されました。これにも色々と議論がありましたが、島本先生から、その辺のことについてご説明願います。

島本 「診察室血圧に基づいた脳心血管リスク層別化」では、リスク層には、メタボリックシンドロームがリスク第二層、CKDがリスク第三層に加えられました。現在話題になっているリスクがガイドラインに取り入れられたことは、大きな進歩だと思います。一方、前回はなかった正常高値が血圧分類に加わり、リスク第一層は付加リスクなし、リスク第二層は中等リスク、リスク第三層は高リスクになっています。これによりハイリスクの方々により厳格な降圧を求めるということになります。しかし、糖尿病患者や腎臓病患者の降圧目標は前回でも130/80mmHg未満でしたから、正常高値以前から治療するという考え方は既にあったわけです。今回、腎臓病に関してはCKDまで概念を広げました。

荻原 メタボリックシンドロームのリスク層の位置付けについては、かなりご苦労されたのではないかと思います。

島本 そうですね。メタボリックシンドロームの診断基準との関連を考慮しなくてはならないので、説明の上で非常に苦慮しました。結局、リスク第二層のメタボリックシンドロームには、「正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上、女性90cm以上)に加え、血糖値異常(空腹時血糖110-125mg/dL、かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常)、あるいは脂質代謝異常のどちらかを有するもの」という但し書きを付けました。なおメタボリックシンドロームで注意すべき点は、同じメタボリックシンドロームでも糖尿病の有無で降圧目標が変わるという点です。

荻原 正常高値で高リスク例の治療に関しては、エビデンスがなく保険診療上も問題があります。しかし、メッセージとしては積極的治療を求めたい。その辺については、楽木先生、いかがですか?

楽木 通常、高リスク例であれば直ちに降圧薬治療を開始するということになります。正常高値でリスク第三層であれば高リスクですから、この考えに従えば直ちに降圧薬治療ということになります。しかし、現行の保険制度では正常高値血圧は治療の対象にはなっていません。ですから、そうした対象に対して降圧薬治療をすぐに開始することの是非をめぐる議論がありました。そこで「初診時の高血圧管理計画」のフローチャートの欄外に、「正常高値血圧の高リスク群では生活習慣の修正から開始し、目標血圧に達しない場合に降圧薬治療を考慮する」との但し書きを付けています。糖尿病や腎臓病合併高血圧の場合は、降圧目標を130/80mmHg未満に設定している以上、140/90mmHg以上という従来の高血圧基準を満たさなくても、正常高値血圧に対して生活習慣の修正を試みた上で積極的な降圧療法を考慮しても良いのではないかとの方向性を示したわけです。

荻原 確かに、今後、高血圧の定義が変わる可能性があると思います。正常高値血圧を臨床的には高血圧として取り扱うという考え方を取り入れていかないと、日常診療上、うまくいかない面があるように思います。今後の課題として学会がアピールしていく必要があるのではないかと思います。

島本 そうですね。今回、降圧目標130/80mmHg未満に心筋梗塞後患者が加わり、正常高値でも高リスク群では降圧療法の対象になるということになりましたので、学会としてもそうした新たな対象に対する降圧療法の必要性について、色々な場で強調していくことが大事だと考えています。

■積極的適応の大部分をカバーするARB/ACE阻害薬■

荻原 JSH2009では、「主要降圧薬の積極的適応」に新たに心房細動(予防)・メタボリックシンドローム・蛋白尿が設けられましたが、いずれもARB、ACE阻害薬が推奨されています。これでARB、ACE阻害薬は、頻脈と狭心症以外のすべての積極的適応をカバーすることになりました。このうち糖尿病合併高血圧では、Ca拮抗薬が第一選択薬から外れて第二選択薬になりました。この点について、島本先生、解説をお願いします。

島本 糖尿病合併高血圧に対して前回のガイドラインでは、ARB、ACE阻害薬のRA系阻害薬と長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が第一選択薬として挙がっていました。しかし、その後の欧米のガイドラインでは、第一選択はRA系阻害薬となっていました。日本ではどうすべきか議論されましたが、結局、1つには糖代謝をより改善する薬剤の方が良いということです。RA系阻害薬とCa拮抗薬の予後を比較したALLHAT、VALUE、CASE-Jなどの高血圧大規模臨床試験でも、糖尿病の新規発症予防にはRA系阻害薬の方が有意に優れるというエビデンスが得られています。もう1つが腎症予防という点です。糖尿病性腎症に対して、RA系阻害薬がCa拮抗薬より優れるというデータが得られています。微量アルブミン尿を伴う糖尿病合併高血圧患者を対象に日本で行われた臨床試験SMART(SMART Group.Diabetes Care 2007)でも、ディオバン®がアムロジピンよりも微量アルブミン尿を有意に改善していました。そしてもう1つ、心血管系イベント予防に関してもRA系阻害薬がCa拮抗薬に劣ることはありません。こうした3つの面を考慮した上でRA系阻害薬を第一選択とし、RA系阻害薬の効果不十分の場合にCa拮抗薬を併用する形にしたのです。

荻原 ARBによる糖尿病新規発症予防や糖尿病性腎症の改善効果が、我が国でもエビデンスとして示されたので、それをガイドラインに取り入れたということですね。糖尿病以外におけるRA系阻害薬の積極的適応について、楽木先生からもう少しお話しいただけますか?

楽木 厳格な降圧という点だけでなく、臓器保護に関してもRA系阻害薬、特にARBのエビデンスが積み重ねられています。日本人においてもJIKEI HEART Study(Mochizuki S et al. Lancet 2007)では、ディオバン®が冠動脈疾患や心不全を伴う高血圧患者の血圧を131/77mmHgまで下げ、同時に各種心血管イベントを有意に抑制するとのデータが得られています。ARBによって得られたこうした日本人のエビデンスが、積極的適応も含めてJSH2009全体に反映されていることも、今回の大きな特徴に挙げることができると思います。

■降圧薬の第一選択薬をめぐって■

荻原 前回のガイドラインでは、第一選択薬としてCa拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬(含αβ遮断薬)、α遮断薬の6剤が挙がっていました。JSH2009では、このうちα遮断薬を除いた5剤になっています。

島本 第一選択薬に関して、多くの先生方が興味を持っていたのは、β遮断薬とα遮断薬がどうなるかということだったと思います。このうちα遮断薬に関しては、ALLHATの成績などからやはり落ちざるを得ないというのは、多くの先生方が同意していたと思います。問題はβ遮断薬で、英国のガイドライン(NICE2006)では第一選択薬から除かれました。しかし、欧州のガイドライン(ESH/ESC 2007)では辛うじて残っています。これらを踏まえて議論を行ったのですが、結果的にはβ遮断薬は第一選択薬として残ることになりました。しかし、適応などは以前に比べるとかなり制約されたものになっています。

荻原 高齢者では、これまでも今回同様、β遮断薬は第一選択薬には入っていません。この点について、楽木先生、いかがですか?

楽木 そうですね。高齢者ではβ遮断薬投与で徐脈になりやすい、潜在性心不全があると投与量によっては悪化するなど、副作用という観点から、これまでも第一選択薬にはなっていませんでした。ただ今回、非高齢者に対してはすべてのβ遮断薬が同じだとは言えないのではないかとの議論がありました。その観点からも、第一選択薬から削除するにはまだ理由が十分ではないので、まずは残しておこうということになりました。もちろん積極的適応の病態はあるわけですし、降圧という点でのβ遮断薬の役割は残っているわけです。

■コディオ®配合錠が新登場■

図1
図2

荻原 厳格な血圧コントロールのために併用療法は非常に重要であると思いますが、最後に合剤の話題を取り上げたいと思います。JSH2009では、合剤がアドヒアランス(治療継続)の改善、血圧コントロールの改善に有用であることが述べられています。折しも本年に入ってコディオ®配合錠が承認になりましたので、そのデータを少しご紹介したいと思います。同配合錠にはディオバン®80mgとHCTZ12.5mgの合剤、ディオバン®80mgとHCTZ6.25mgの合剤(各々コディオ®配合錠EX、コディオ®配合錠MD)の2種類がありますが、いずれの配合錠ともにディオバン®80mg単独よりも降圧効果が強く、さらには効果発現も速いとのデータが得られています(図1、2)。レスポンダーレートも高く(コディオ®配合錠EX83.3%、コディオ®配合錠MD70.3%)、コストパフォーマンスにも優れているようです。こうした合剤について、島本先生、どうお考えですか?

島本 選択肢が広がるわけなので、医師にとっても患者にとっても良いことだと思います。降圧薬の選択にあたってはコストの問題も重要です。降圧効果が強く、しかもコストパフォーマンスにも優れるということは歓迎すべきことです。

荻原 JSH2009では、少量利尿薬の積極的な併用を推奨していますが、剤形の問題があり少量利尿薬というのが実際には使いにくいという問題があります。そうした中、コディオ®配合錠が登場する意義は極めて大きいと言えます。楽木先生、どうお考えですか?

楽木 合剤の普及は、様々な点で利点があると思いますが、その利点を患者さんに理解していただくことで治療効果はさらに高まる可能性があります。JSH2009では、医師と患者が合意に達した診療を行うことを意味するコンコーダンスという新しい用語を導入しました。コンコーダンスを重視した治療によりアドヒアランスが改善し、心血管病の予防に繋がることが期待されます。

荻原 最後にJSH2009の活用について、そしてARBについて一言ずつコメントをお願いします。

島本 ガイドラインはあくまでも標準的な治療方針を述べたものなので、個々の医師の判断に基づいてケースバイケースで使い分けをしていただきたいと思います。ガイドライン通りにしなかったら訴訟裁判で負けるといった性質のものでは決してありません。今回のガイドラインは日本のエビデンスを盛り込んでいますが、この5年間に出てきたエビデンスはほとんどがARBのものなのです。そういった意味で、JSH2009ではARBの位置付けが大きくなりました。降圧効果がしっかりしており、なおかつ副作用のほとんどないARBの位置付けはさらに上がるものと思われます。

楽木 JSH2009の最大のポイントは、厳格な降圧目標の達成ということにあります。そのためにARBは優れた薬剤であり、これは一般医家の方々も実感しておられると思います。それを裏打ちするエビデンスがこれだけ揃ったと示せたことが、JSH2009の1つの意義とも考えられます。エビデンスに基づいた診療の中でARBはさらに活用されていくものと思われます。ARBは併用療法にも優れることが明確になってきていますが、合剤の登場はARBの使用頻度をさらに高めるきっかけになるのではないかと考えています。

荻原 JSH2009が、全国民の心血管合併症制圧の手段として広く使われることを期待したいと思います。ARBと利尿薬の合剤は、さらに強力な降圧手段になるものと思われます。本日はありがとうございました。

ページの先頭に戻る